作品集『時間跳躍式完全無劣化転送装置』がお陰様で発売になりました!
ネットなどに感想などがちらほら流れているころで、大変ありがたいです。
このありがたさを経験すると、本を出す人の気持ちがわかるようになりますね。次も出せるようにがんばります。
さて、当初は巻末に作品覚書きを記そうと思いましたが、結局やめました。うるさい気がしたので。
ただせっかくだから、読めたら嬉しいという人もいるだろうし、自分も他人のそういうものを読むのが好きなので、ここに書いておきます。
主に当時どういうことを考えていたとか、描きながら想起していた作品とか。
あくまで制作過程で作者が考えていたことにすぎないので、完成物としての作品内容の真実や答えを示すものではありません。あとネタバレありなので本編を読んでから読んでください。
時間跳躍式完全無劣化転送装置
2021年制作。初出はコミティアで、その後モーニングの編集さんに声をかけてもらって月例賞に応募し、受賞したものです。
もともとは1ページの作品でした。「未来にしか物を送ることができない不便なタイムマシンが、食品の保存に使える」というネタ自体は同じ。ただし、キャラクターは紋切り型な博士と助手みたいな2人で、内容は「助手がおやつのショートケーキを300分後に保存しようとしたら、間違えて300年後の核戦争で荒廃した未来の地球に転送してしまい、嘆いていたけど、荒廃したはるか未来の荒野でイチゴの種が発芽してそれが希望に…」という話です。文章で描いただけで全部ですね。ネームだけ作ったけどなんかイマイチだったので作画してませんでした。
当時、コミティアが近かったのでこの話を再利用しました。
未来に物を送るタイムマシンを擬人化。物事を先延ばしする傾向のあるキャラクターにしてできた咲子と、もう一人の対象的なしっかりものの楓。食品の話なんだからもう片方はシェフかな。どういう背景のある二人なんだろう。ストーリーは?とか考えて出来た話です。
タイトルはイアン・ワトスンの『超低速時間移行機』から。
テーマについてはテッド・チャンの『商人と錬金術師の門』で語られた「たとえタイムトラベルが実現しても、過去を書き換えることはできないが、過去を深く知ることは出来る」という話が妙に心に残っていたのでそのへんを自分なりに読みかえてみました。
お風呂でネームを描いたのでこの話を読むとお風呂に入った気持ちになります。
サバイバーズゲーム
2023年制作。初出は月刊コミックビームです。
担当編集の人と読み切り作ろうということになって、「とにかく最初の3ページが強いやつがいいですね」という話だったので、当時のストックの中から一番強そうなものを出して、面白がってもらえたので、じゃあ続きを考えよう、と言って出来た話です。当初は宇宙人への復讐の方法を考える話だったのですが、その行為って別に空中という環境とのシナジーがないよね?ということで没に。
そこで、じぶんが実際に空中生活したらどうなるの?というところを掘り下げました。食事は?下から送ってもらえる。トイレは袋に詰める。風呂はドライシャンプー。どう考えても、最大の問題は、ヒマということ。動かずにできる暇つぶしってなに?本読むとか、ゲームをやるとか。ということで、ゲーム好きな少女の恭子に主人公になってもらいました。それで、オンラインで繋いだら友達とも遊べるよな。でも自分が特殊な状況に置かれているなら心の底から仲良くなれる友達になれるか?じゃあ同じように特殊な状況にある友人でなくては。という感じで、あとは流れで。インディーゲーム作る話は前から描きたかったので、うまく合流してくれました。
当時、いわゆるソリッドシチュエーションものの映画をよく観ていた時期でした。主人公が動けない状況になるジャンルですね。スキー場のリフトが停止してうごけない『フローズン』とか。地雷を踏んじゃって動けない『トラップ』とか。『SAW』とか『CUBE』あたりが黎明期の作品で、最近だと電波塔から降りられなくなる『FALL』とか。
だいたいこういう物語ってとにかく脱出しようと頑張りつづけたり、その停滞と絡めた主人公の過去の回想に入る、みたいな方向に行くんですが、そうじゃなくて、早々にあきらめて、そこで生活するみたいな図太さにフォーカスしたら楽しいんじゃないのかと思いました。真っ先に思い出すのがジョジョ4部の鉄塔で暮らしてる人の話とか、あと、恒川光太郎の「神家没落」という小説。うっかり呪いの家に囚われて出られなくなった青年が、そこでそのまま喫茶店を始めてしまう話です。人類が極限環境に適応する図太さって良いですよね。知恵とたくましさが垣間見えるし、なんならそれがいちばん本質的な人間らしさなのかも。
細かい生活感とかはもっと沢山ページ割いて楽しい感じにしたかったんですが、なんとかねじ込むだけになりました。ご想像におまかせします。
あとは、超低速移動つながりで伴名練の『ひかりよりはやく、ゆるやかに』とかも想起してました。
原稿やってた時期がちょうどゼルダのティアキンが発売した時だったので、読むと原稿の合間をぬってプレイしていた記憶が蘇ります。
パワー・オブ・エッグ
2026年制作。描き下ろし作品。
前後の話が重ためなので、軽い質感になるようにしました。
10ページという分量が最初に決まっていたので、番組の間の5分アニメみたいな感じになるようなイメージで。
元ネタと言うほどのものではないのですが、王晋康の「七重のSHELL」という作品が念頭にありました。これはVRの世界から現実から目覚めたと思ったらVRでした、というのを何回も繰り返すという話なのですが。七重のシェルという部分が妙に印象的だったので、それを使わせてもらいました。
うさぎの本
2025年制作。初出はコミティアです。
ネームから作画まで5日で描いたので、とにかく大変だった記憶しかないです。太陽(?)が喋るページなどはスケジュールに余裕があったら描かなさそうなページですね。その後、頭が冷えた状態で1か月くらいかけて加筆修正とページ追加などをしたので、狂乱と冷静さがブレンドされたものになりました。結果的には素の自分が宿った作品になった気がして良かったと思います。
意図的にやったのは読み心地として、うさぎの観察日記から始めて、だんだん様子がおかしくなる、という構成にしよう、というくらいです。あとは中年男性ふたりの物語なので、人間でやるとちょっとあんまりにも苦しすぎる話を、これならとことんまで行けるぞ、と思って頑張ってもらいました。自分なりのピクサーをやったつもりです。
冒頭はかなり『PERFECT DAYS』ですね。あと友情の描き方には大好きな映画、『イニシェリン島の精霊』を強く意識しながら。あれもクライシスの話ですね。一番大きなテーマは『存在の耐えられない軽さ』から受け取ったものを自分なりに考えた感じです。シーシュポスの神話とか、そのへんも含めて。結局のところ、人生ってなにをやりがいにしてやっていけば良いんでしょうね。まあそれを考えるのも人生なのですが……
キャラ造形など、内容に関して、あんまり何も言わない方が良いような作品の気がするので、この辺にしときます。キューブキャロットのようなうさんくさい小道具が好きなので、出せてよかったです。
以上です。
バインミー
