2026/05/31

『時間跳躍式完全無劣化転送装置』作品おぼえがき



 

作品集『時間跳躍式完全無劣化転送装置』がお陰様で発売になりました!




ネットなどに感想などがちらほら流れているころで、大変ありがたいです。
このありがたさを経験すると、本を出す人の気持ちがわかるようになりますね。次も出せるようにがんばります。
 





さて、当初は巻末に作品覚書きを記そうと思いましたが、結局やめました。うるさい気がしたので。
ただせっかくだから、読めたら嬉しいという人もいるだろうし、自分も他人のそういうものを読むのが好きなので、ここに書いておきます。
主に当時どういうことを考えていたとか、描きながら想起していた作品とか。
 
 

あくまで制作過程で作者が考えていたことにすぎないので、完成物としての作品内容の真実や答えを示すものではありません。あとネタバレありなので本編を読んでから読んでください。







時間跳躍式完全無劣化転送装置

2021年制作。初出はコミティアで、その後モーニングの編集さんに声をかけてもらって月例賞に応募し、受賞したものです。

もともとは1ページの作品でした。「未来にしか物を送ることができない不便なタイムマシンが、食品の保存に使える」というネタ自体は同じ。ただし、キャラクターは紋切り型な博士と助手みたいな2人で、内容は「助手がおやつのショートケーキを300分後に保存しようとしたら、間違えて300年後の核戦争で荒廃した未来の地球に転送してしまい、嘆いていたけど、荒廃したはるか未来の荒野でイチゴの種が発芽してそれが希望に…」という話です。文章で描いただけで全部ですね。ネームだけ作ったけどなんかイマイチだったので作画してませんでした。

当時、コミティアが近かったのでこの話を再利用しました。
未来に物を送るタイムマシンを擬人化。物事を先延ばしする傾向のあるキャラクターにしてできた咲子と、もう一人の対象的なしっかりものの楓。食品の話なんだからもう片方はシェフかな。どういう背景のある二人なんだろう。ストーリーは?とか考えて出来た話です。

タイトルはイアン・ワトスンの『超低速時間移行機』から。
テーマについてはテッド・チャンの『商人と錬金術師の門』で語られた「たとえタイムトラベルが実現しても、過去を書き換えることはできないが、過去を深く知ることは出来る」という話が妙に心に残っていたのでそのへんを自分なりに読みかえてみました。


お風呂でネームを描いたのでこの話を読むとお風呂に入った気持ちになります。








サバイバーズゲーム

2023年制作。初出は月刊コミックビームです。

担当編集の人と読み切り作ろうということになって、「とにかく最初の3ページが強いやつがいいですね」という話だったので、当時のストックの中から一番強そうなものを出して、面白がってもらえたので、じゃあ続きを考えよう、と言って出来た話です。当初は宇宙人への復讐の方法を考える話だったのですが、その行為って別に空中という環境とのシナジーがないよね?ということで没に。

そこで、じぶんが実際に空中生活したらどうなるの?というところを掘り下げました。食事は?下から送ってもらえる。トイレは袋に詰める。風呂はドライシャンプー。どう考えても、最大の問題は、ヒマということ。動かずにできる暇つぶしってなに?本読むとか、ゲームをやるとか。ということで、ゲーム好きな少女の恭子に主人公になってもらいました。それで、オンラインで繋いだら友達とも遊べるよな。でも自分が特殊な状況に置かれているなら心の底から仲良くなれる友達になれるか?じゃあ同じように特殊な状況にある友人でなくては。という感じで、あとは流れで。インディーゲーム作る話は前から描きたかったので、うまく合流してくれました。

当時、いわゆるソリッドシチュエーションものの映画をよく観ていた時期でした。主人公が動けない状況になるジャンルですね。スキー場のリフトが停止してうごけない『フローズン』とか。地雷を踏んじゃって動けない『トラップ』とか。『SAW』とか『CUBE』あたりが黎明期の作品で、最近だと電波塔から降りられなくなる『FALL』とか。
だいたいこういう物語ってとにかく脱出しようと頑張りつづけたり、その停滞と絡めた主人公の過去の回想に入る、みたいな方向に行くんですが、そうじゃなくて、早々にあきらめて、そこで生活するみたいな図太さにフォーカスしたら楽しいんじゃないのかと思いました。真っ先に思い出すのがジョジョ4部の鉄塔で暮らしてる人の話とか、あと、恒川光太郎の「神家没落」という小説。うっかり呪いの家に囚われて出られなくなった青年が、そこでそのまま喫茶店を始めてしまう話です。人類が極限環境に適応する図太さって良いですよね。知恵とたくましさが垣間見えるし、なんならそれがいちばん本質的な人間らしさなのかも。
細かい生活感とかはもっと沢山ページ割いて楽しい感じにしたかったんですが、なんとかねじ込むだけになりました。ご想像におまかせします。
あとは、超低速移動つながりで伴名練の『ひかりよりはやく、ゆるやかに』とかも思い出してました。


原稿やってた時期がちょうどゼルダのティアキンが発売した時だったので、読むと原稿の合間をぬってプレイしていた記憶が蘇ります。






パワー・オブ・エッグ

2026年制作。描き下ろし作品。
 
前後の話が重ためなので、軽い質感になるようにしました。
10ページという分量が最初に決まっていたので、番組の間の5分アニメみたいな感じになるようなイメージで。

元ネタと言うほどのものではないのですが、王晋康の「七重のSHELL」という作品が念頭にありました。これはVRの世界から現実から目覚めたと思ったらVRでした、というのを何回も繰り返すという話なのですが。七重のシェルという部分が妙に印象的だったので、それを使わせてもらいました。







うさぎの本

2025年制作。初出はコミティアです。

ネームから作画まで5日で描いたので、とにかく大変だった記憶しかないです。太陽(?)が喋るページなどはスケジュールに余裕があったら描かなさそうなページですね。その後、頭が冷えた状態で1か月くらいかけて加筆修正とページ追加などをしたので、狂乱と冷静さがブレンドされたものになりました。結果的には素の自分が宿った作品になった気がして良かったと思います。

意図的にやったのは読み心地として、うさぎの観察日記から始めて、だんだん様子がおかしくなる、という構成にしよう、というくらいです。あとは中年男性ふたりの物語なので、人間でやるとちょっとあんまりにも苦しすぎる話を、これならとことんまで行けるぞ、と思って頑張ってもらいました。自分なりのピクサーをやったつもりです。 

冒頭はかなり『PERFECT DAYS』ですね。あと友情の描き方には大好きな映画、『イニシェリン島の精霊』を強く意識しながら。あれもクライシスの話ですね。一番大きなテーマは『存在の耐えられない軽さ』から受け取ったものを自分なりに考えた感じです。シーシュポスの神話とか、そのへんも含めて。結局のところ、人生ってなにをやりがいにしてやっていけば良いんでしょうね。まあそれを考えるのも人生なのですが……
 
作品の性質上、キャラ造形など、内容に関してあんまり何も具体的な意図などを言わない方が良いような気がするので、この辺にしときます。キューブキャロットのようなうさんくさい小道具が好きなので、出せてよかったです。












以上です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
バインミー 
 
 
 
 
 
 
 


2026/05/22

無知の仙水、四天王寺大古本まつり(2026/4)

 

意図のない絵


5月も後半ですね 早いもんだ…

 

 

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断続的にずーっと単行本の作業をしてました

いよいよ来週発売!あらためて一通り言及しておきます。

 


  

 

先日、見本誌が届きました。うおー!ほんとに紙書籍だ!

こんな紙価格が厳しい時代に、どこぞの馬の骨ともわからん新人の短編集をモリモリと刷っていただけるというのは、ほんとにありがたいことです。

 

■書籍デザインはコードデザインスタジオさんにお願いしました。

コードさんはレイ・ブラッドベリとかチャック・パラニュークの装丁も手掛けているということもあり「ポップなハヤカワSFみたいな感じで」というオーダーに答えていただきました。

イチオシポイントは背表紙のデザインです。14文字とひどく長いタイトルでご迷惑おかけしましたが、かっこよく収めてくれてます。プロの仕事だ……

というわけで、個人的には紙書籍がおすすめです。ぜひ自宅の本棚にぶっ刺してください。

 

■帯は小島監督に書いていただきました。

めちゃくちゃ恐縮なコメントをいただいています。なんか平然と書いてるけど、まだ実感なくてそんなことあっていいのか……?の気持ちです。デススト2おもすれ~とか言ってた数ヶ月前の自分に教えてあげたいよ。 

メタルギアシリーズは疑いようもなく自分の人格形成に強い影響を与えています。たぶん少し上の世代の人たちにとってのエヴァなどがそうであるように。 シリーズ通して甲乙つけがたく好きなんですが、やっぱり初めてやったMGS2の印象が深く、現時点でもやはり世界一かっこいいゲームのひとつだと思ってます。この話もっとしたいけど円周率の展開ばりに永久に話してしまうのでやめときます。またの機会に。

 


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■応援書店向け情報


 

SNSにも貼った特典情報の一覧です。ペーパーなどが色々かきました。

早い段階で予約注文してくれてる人には申し訳ないような気持ちもありつつ…

いい感じにお願いします。

 

 

 

 

※この人は本にでてきません 

 

 

 

 

 

 色紙も9枚描きました。たのしかった。

各種書店に順次展示される予定です。 




あと、サイン本ですね。




どーんと家に送られてきましたので、ここに書いていきます。190冊。

 

 

こんな感じでもりもりと。うーん、まるで作家みたいだ……

 

100冊くらい書いてるとだんだん簡略化されてきてバランスのいい感じになっていきます。カッコつけていると思ったあの芸能人のサインも、じつは合理化の果てにたどり着いた理論値なのかもしれませんね…

 

サイン本の行方に関しては自分もよくわかってません。たぶん色紙を書いた書店とかに置かれると思うので、またSNSとかで告知します。

すでに買ってくださった方も、コミティアとかに持ってきてくれたらぜんぜん描きますので。 

 

 

 

 

 

一冊も売れなかったらどうしよう……

 

 

 

というわけで、なんだかんだ4月と5月上旬あたりはずーーーっと単行本関連の作業してました。

ほとんど既存作の収録なんだから、1週間もあれば全作業おわるだろ、とタカをくくってたら思いの外いろいろ大変でした。

原因の80%くらいはフォントをいじくりまわしたり、加筆修正をモリモリしていたことにあります。おもに『時間跳躍式~』 はけっこう全ページ加筆修正してます。当時心残りだった部分がすごく多いので、個人的には手を入れれてよかったです。

ただ、読者の側からしたらこういうのって変に加筆せずにオリジナルのまま収録してくれて別にいいのに…(というかそっちの方がいいのに…)という気持ちもあると思いますし……まあ自分もわかります。なので加筆は加筆でも、極力、元の雰囲気が崩れないような塩梅で行いました。見比べたらよく分かると思うけど、たぶん黙ってたらあんまり気づかない程度だと思います。5年前の自分の絵柄をシュミレートして…… 一体なんの努力なんだ…これは…?とも思いつつ……


しかし1冊本をだすというだけでもこんなに大変だと思うと、週刊連載なんかしてる人は…うーん、すごすぎる。 

ともかく、結果的に今出せる最大パワーの本になったと思います。

 

これでダメならどうしようもない。買っておくれやす♪

 

 

 

 

 

 

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 日記らしい日記も。

 

 

 

 

大阪自然史博物館でやってた鳥展にいってきました。いいビジュアルデザインですよね。

鳥がおそろしいほどいっぱいいた。鳥ってぜんぶかわいいですよね。

 

鳥の剥製はこうやって真っ直ぐにして引き出しとかに収納されるらしい。ちょっとこわい。 

 

それにしても、こういう展示会に来るたびに全然その対象のことを知らなくて打ちのめされますね。名前もよく知らない。毎回「俺は花も木も虫も動物も好きなんだよ。ただ、あんまり知らないだけだ……」という無知の仙水になってしまうのですが、まあこれからこれから。たくさん鳥について学びました。


 
スキナー箱(条件付けを研究する装置)に入れられたカワラバト。
 


 
 空を飛ぶ生き物というくくりでトビヘビも展示されていた。映像もありましたが、飛んでいるというより落ちているだけに見えましたが…(バズ・ライト・イヤー)
 
  
 
………普通に鳥がたくさん展示されている写真がない!

 
猛禽類のところとか見応えすごかったのに…… なんかこういう展示に行くと外れ値みたいなやつだけ写真を撮ってしまうので、まっとうな記録がほとんどなくて後からなにをやっているんだ…という気持ちになりますね。こんどからちゃんとします。本当に。
 
 
 
 
 
 
 
 

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四天王寺でやってた古本祭りにも行ってきた。
 
 
神社の境内に大阪の色んな古本屋が集まって露天をだす、要は中古本フリマですね。
大学生の頃は京都に住んでて、なんかそこら辺の寺でこういうことがやってたので、懐かしさに惹かれてひさびさに。
  
 
 
 
 いちおう目玉の100均コーナー。けっこうちゃんとした本も並んでいてかなりすごいです。
 ただ、開店1時間とか前なのにこの人の量。このままどんどん待機の人たちが増えていき…最終的にゴブリン突撃部隊みたいな感じの猛者の人たちが怒号を飛び交わせながら本を取り合う魔窟と化していたので、退散してのんびりと他の店を回ってました。
 
えげつないくらい店舗も多いので、4時間くらいかけたけど半分くらいしか回れませんでした。 
 



買った本。これだけで1000円ちょっとなのでありがたいですね。世界動物文学全集がうれしい。「すばらしい犬の物語」ってなんなんだ。気になりすぎるよ。

楽しかったです。 

 

 

 

~古本市あるある5選~

 


・20店舗くらい回ってると、もはやどの店に行っても同じラインナップになってきて、もうええて!!!!という気分になってくる

 

 ・仏教の本が2億冊あるし、右翼本も1億冊ある



・軽く読めるような本は買わなくても図書館で借りればいいや…という思考になり、必然的に鈍器みたいな本ばかりを買うことになり、結果的にあまり冊数を買うことはできない

 


・雨降ったらどうなるんだろう……と思うけど、なぜか雨は降らない

 


・どうせ買っても読まない 

 



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【よかったもの(の一部)のコーナー】

ほぼ2か月分あるから多すぎる。あっさりといきます。

 


・『ハムネット』

ありえないくらいよかったです。いまのところ今年1番!なんなら生涯ベスト級。
ラストシーン、今思い出しても信じられないくらいすごい。映画ってここまで到達できるんだ。崇高ってこういうときに使う言葉ですね。
シェイクスピアの妻、という題材そのものにはほとんど関心なかった(シェイクスピアってベニスの商人くらいしかちゃんと知らない)けど、普遍的なテーマを扱っているので見やすかったです。
 
「悲劇が人の心を癒す可能性」というものには前々から個人的に関心があったので、そういう部分も良かったかも。 悲しみは分かち合うことでしか癒せないというか。『インサイド・ヘッド』なんかもそういうテーマでしたね。落ち込んでいるときに見る『ダンサー・イン・ザ・ダーク』とか『メランコリア』がなんか嬉しかった、という経験も。世界が悪い場所であるという命題は、個人の中で完結するときは絶望でしかないんだけど、その感覚を誰かと共有できることには希望がある、とか、そういうことかもしれない。 
 
 
 

・『サイレントヒルF』
よかったです。何周も周回する前提のゲームで、めんどくさいな、と思いつつも、ちゃんとすべての演出に意図が込められている硬派な作りだったから嬉しかった。
 
ゲームに限らずだけど、ちょっと前まで、自分の中で、物語体験って1回で終わらせるべきだ、みたいなものに謎のこだわりがあったんですよね。何回も繰り返すとどんなお話もただのデータの集積であって、作り物に見えてくるから。だから純粋な体験は現実と同じで1回きりにすることがリスペクトだ。みたいな。だけど、最近はそういう気持ちも薄れつつあります。気に入った音楽なんか1回聴いただけで終わることないので、何でも何回も繰り返すべきだな、という気持ちで。
 
 
 

 
そういえば、ぽんぽこチャンネルの「マリオギャラクシーの映画を24時間で何回も観る」という企画があって、非常に示唆的な社会実験という感じでおもしろかったです。 
2人とも合計で1日に6連続くらいでマリオギャラクシーを観るんだけど、意外にも「観るたびにどんどん面白くなっていった」「なんなら1回目が一番つまんなかった」という結果に。ちょっとびっくりしたけど、言われてみれば確かにそうか…とも。あと「何回も観たはずなのに観たことの無いシーンが出てくる」という感想も面白かった。自分も観てきましたが、まあ情報量の異常に多い作品なので、この傾向はなおさらではありますね。
 
ネタバレなしの初回の鑑賞って、確かに先が見えない嬉しさというものを享受できる一方で、全体性が把握できてないがゆえに、良さというものを信じられないくらい取りこぼしているんだろうな、と。あと、人間の集中力って思ったより全然たいしたことないので、2時間の映画を観たとしてもちゃんと追えているのは3割くらいかもしれない。自分は実際そうです。
 
ほんとに気に入った映画とかあったら、余韻にひたる間もなく2回目をすぐ流す、みたいなことしていいのかも。アンチ・ファスト鑑賞でいたいなら1回観たくらいで観た気になるのは甘いのかもしれない……。











今月はここまで。

またコミティアあるのでなんか描けたらいいですね。






きゅうりバー